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名古屋地方裁判所 昭和33年(ワ)1106号 判決

原告 滝藤儀三郎

被告 国 外二名

訴訟代理人 林倫正 外五名

主文

被告牛田栄一は原告に対し別紙目録記載の不動産につき名古屋法務局稲沢出張所昭和三二年一月三一日受付第一三九号をもつてなされた同日売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

原告の被告牛田栄一に対するその余の請求並びに被告国及び被告青木毛織合名会社に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

被告国及び被告青木毛織合名会社は原告に対し各自金五一六、〇〇〇円及びこれに対する被告国は昭和三三年七月一五日以降、被告青木毛織合名会社は昭和三三年七月一四日以降完済までの年五分の割合による金員を支払え。

被告牛田栄一は原告に対し、別紙目録記載の物件につき名古屋法務局稲沢出張所昭和三二年一月三一日受付第一三九号をもつてなされた同日売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をなし、かつ金一〇〇万円及びこれに対する昭和三三年七月一六日以降完済までの年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、被告青木毛織合名会社は昭和三三年四月原告を相手方として名古屋地方裁判所一宮支部に仮処分の申請をなし、同裁判所杉田寛裁判官は当事者の審尋をなさずに同年五月二日「一宮市萩原町朝宮字寺裏一四一三番、家屋番号九七番の二、木造瓦葺平屋建居宅建坪二五坪四合(諸式付)に対する原告の占有を解き、被告青木毛織合名会社の委任する名古屋地方裁判所執行吏をしてこれを保管せしめる。原告は被告青木毛織合名会社に対し右建物(諸式付)を明け渡し、被告青木毛織合名会社が建物(諸式付)を取り毀し同被告方へ搬出するのを妨害してはならない」旨の仮処分決定をなし、被告青木毛織合名会社は右仮処分決定の執行を完了した。

しかしながら右仮処分決定は、第一項で物件を執行吏保管に移し、第二項でその保管中の物件を申請人である被告青木毛織合名会社が取り毀すことを許しており、国家機関である執行吏が保管中の物件を私人が勝手に取り毀すことができないのに、これを許したものとして違法である。

また右仮処分決定は、事実に反する申請理由、疎明資料に基き保全の必要がないのになされたものとして違法である。すなわち、訴外坪内諒三郎は被告牛田栄一、訴外加藤守一を連帯保証人として訴外尾西信用金庫から金四〇四、〇〇〇円を借り受け、これを更に原告は右坪内から借り受け、その担保として訴外坪内に対し原告所有の別紙目録記載の不動産に抵当権を設定した。而して被告牛田栄一が尾西信用金庫に対する訴外坪内の右債務につき連帯保証人となつているので、同被告が何時原告により損害を蒙るやも知れないことを慮り、その損害を補償する資力を保全するため、右仮処分の目的物件及び別紙目録記載の不動産の所有権を原告より被告牛田に移転した。ところが被告牛田栄一は右仮処分の目的物件を真実買い受けたものではないことを知りながら檀にこれを被告青木毛織合名会社に売却したものである。しかも原告は被告青木毛織合名会社が仮処分申請の理由に述べているような昭和三三年一二月二二日被告青木毛織合名会社に対し、右仮処分の目的物件を昭和三三年三月上旬に取り毀す旨の約定をしたことはなく、原告の住居は右目的物件のみであつて、右建物と同一敷地にある母屋は朽廃して倒壊の危険性があり使用不能の状態にある。その上、仮処分申請の添付疏明書類によるも右仮処分決定の如く目的物件を明け渡さなければ、被告青木毛織合名会社が建物明渡妨害除去の本案訴訟で勝訴の判決を得ても、その権利の実行をなすことができず又はこれをなすにつき著しい困難を生ずる恐れがあるとは言えない。他方原告は右仮処分決定の執行により住居を失い、一家路頭に迷う結果となつたのであるから、保全の必要はなかつたものとして民事訴訟法第七五五条に違反する。杉田寛裁判官は右仮処分申請に対し当事者の審尋をすれば当然被告青木毛織合名会社の申請理由が事実に反し仮処分の必要がないことを知り得るのであつて、審尋をなすべき場合であるのにこれを怠つた過失があり、このため右事実を知ることができず、もつて右のとおり違法な断行的仮処分決定をなすに至つたものである。

右違法な仮処分決定の執行により、原告は名誉を傷つけられ信用をおとしたので慰藉料として金五〇万円、右執行により原告に生じた費用金一六、〇〇〇円(内訳、右執行の善後策のため原告及び原告代理人訴外木全丈次が名古屋地方裁判所一宮支部或は名古屋市等に往来した交通費等金四、〇〇〇円、原告が本件仮処分申請書の謄写費として司法書士に支払つた金五〇〇円、本件仮処分執行停止決定申請に必要な土地家屋の登記簿謄本下附の費用、五〇〇円及び本件仮処分執行停止決定申請のために弁護士桜井紀に支払つた金一万円)以上合計金五一六、〇〇〇円の損害を蒙つたので、国家賠償法に基き杉田寛裁判官の使用者である被告国に対し、右損害賠償金五一六、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が被告国に到達した日の翌日である昭和三三年七月一五日から完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告青木毛織合名会社は右仮処分申課に際し前記事実に反する疏明資料を添付して杉田寛裁判官を欺罔し、よつて前記の如き違法な仮処分決定をなさしめた。原告は右仮処分決定の執行により信用をおとし名誉を傷つけられたので慰藉料として金五〇万円、右執行により原告に生じた費用金一六、〇〇〇円(内訳は前記被告国に対する場合に同じ)合計金五一六、〇〇〇円の損害を蒙つたので、被告青木毛織合名会社に対し右損害賠償金五一六、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が同被告に到達した日の翌日である昭和三三年七月一四日から完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告牛田栄一は前記のとおり右仮処分の目的物件及び別紙目録記載の物件を原告から買い受けたのではないのに、右仮処分の目的物件についてはこれを買い受けたものとして原告不知の間に被告青木毛織合名会社に売却したため、前記仮処分決定の執行により取り毀されて原告は右物件を喪失し、もつて右物件の仮処分当時の価格一〇〇万円相当の損害を蒙り、また別紙目録記載の物件については事実に合致しない右売買を原因として名古屋法務局稲沢出張所昭和三二年一月三一日受附第一三九号による所有権移転登記がなされているので、被告牛田栄一に対し右損害賠償金一〇〇万円及びこれに対する本件訴状が被告牛田栄一に送達された日の翌日である昭和三三年七月一六日から完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると共に、所有権に基き右登記の抹消登記手続を求める。

と述べ、被告牛田栄一の抗弁事実を否認し、

証拠として、甲第一乃至第八号証を提出し、証人小川四郎兵衛、加藤守一、坪内諒三郎、木全丈次、祖父江勝助の各証言及び原告本人尋問の結果鑑定人下矢来重の鑑定の結果並びに検証の結果を援用し、乙各号証の成立はいずれも不知と述べた。

被告国代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並びに仮執行免脱宣言を求め、答弁として、

被告国に対する請求原因事実中、被告青木毛織合名会社の申請により、原告主張のように当事者の審尋なく仮処分決定がなされたことは認めるが、右仮処分決定の執行を完了した点は不知、その余の事実を否認する。右仮処分決定は、前段と後段を併せ一体をなすものであるから矛盾のないように統一的に理解すべきものであつて、これを統一的に虚心に読めば疑いもなくその前段において仮処分目的物件を執行吏の保管に移した上、後段において執行吏に申請人である被告青木毛織合名会社をして右物件の取毀しをさせる権限を与えたものと解されるから何らかの矛盾なく違法な点は存しない。また原告主張の仮処分申請は、被告青木毛織合名会社が移築の目的で原告占有中の右建物を買い受け、原告は右建物の引渡、取毀しについて異議がなかつたところ、原告が約定の期限までに右建物を明け渡さないので被告青木毛織合名会社は右建物の移築ができることを前提として従来その女子従業員寄宿舎に供していた建物をすでに取り毀し、現に女子従業員のための寄宿舎に困却し、かつ同被告会社の営業上においても著しい損害を蒙つているので右建物の取毀し並びに搬出の許可を求めたものであつて、右申請添付の疏明資料によつて右申請理由は充分認められるところである。杉田裁判官は右仮処分決定にあたつて右の疏明資料を検討した結果、申請が理由あることについて充分の心証を得たので被申請人である原告の審尋の必要を認めず、前記のとおり仮処分決定をしたものであり、杉田寛裁判官には過失はない。

と述べた。

被告青木毛織合名会社、被告牛田栄一両名訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、

被告青木毛織合名会社、同牛田栄一に対する請求原因事実中、被告青木毛織合名会社の申請により原告主張のように当事者の審尋なく仮処分決定がなされ、右決定の執行が完了したこと、訴外坪内諒三郎が被告牛田栄一、訴外加藤守一を連帯保証人として訴外尾西信用金庫から金四〇四、〇〇〇円を、借り受け、更にこれを右坪内から原告が借り受け、その担保として訴外坪内に対し原告所有の別紙目録記載の不動産に抵当権を設定したことは認めるが、原告が被告牛田栄一に仮処分の目的物件及び別紙目録記載の不動産の所有権を損害補償の資力保全のため移転したことは不知その余の事実を否認する。原告の被告牛田らに対する前記借入金元利金の支払がその予想もつかなくなつたので、被告牛田栄一は昭和三二年八月頃原告との間に本件仮処分の目的物件を第三者に売却しその代金をもつて決済することに協定し、原告同意のもとに同年一二月頃代金五〇万円で被告青木毛織合名会社に売却したのであつて、その際原告は被告青木毛織合名会社が寄宿舎に建て直すため早急にこれを取り毀すことを売買の条件として承諾していたものである。被告青木毛織合名会社は昭和三三年一月八日右物件につき所有権移転登記手続をなし、同月一二日約定にしたがい畳建具を搬出するため右建物に赴いたところ、当時居住中の原告からしばらく待つて貰いたい旨申入れがあり、更にその後も再三猶予を懇請し一向自発的に明け渡す意思が認められず、一方被告青木毛織は右建物を自己の工場内に移築して寄宿舎とするため準備を整え臨時的に工員を工場構外に宿泊させている等忍び灘き状態が続き損失も多いので仮処分申請に及んだものである。

と述べ、被告牛田栄一の抗弁として、

前記の訴外尾西信用金庫からの借入金については被告牛田が全責任を負担する約であつたところ、原告は所定の利息さえも延滞し、被告牛田栄一は訴外尾西信用金庫に対し連帯保証契約に基く債務を履行しなければならない危険が切迫したので、原告との間に将来原告に対して現実に取得すべき求償債権を担保するため譲渡担保契約を締結し、本件仮処分目的物件と共に別紙目録記載の物件の所有権を取得し、原告主張のような所有権移転登記手続をなしたものである。

と主張し、

証拠〈省略〉

理由

一、被告国に対する請求について、

被告青木毛織合名会社が原告を相手方として名古屋地方裁判所一宮支部に仮処分を申請し、昭和三三年五月二日同裁判所杉田寛裁判官が原告主張のとおりの仮処分決定をしたこと、同裁判官が右仮処分決定をなすにつき当事者を審尋しなかつたことは当事者間に争がない。

原告は、右仮処分決定は国家機関たる執行吏保管中の物件を私人たる申請人(被告青木毛織合名会社)に対し擅に取り毀すことを許しているものであるから決定自体違法である旨主張する。なる程右決定は第一項で仮処分目的物件を原告の占有から執行吏の占有保管に移し、第二項で右執行吏保管中の物件につき申請人たる被告青木毛織合名会社が取りこわし搬出するのを原告において妨害してはならない旨命じていて、執行吏保管中の物件を被告青木毛織合名会社が取り毀し得ることとなつているがしかしながら右一、二項を一体としてみれば本件仮処分の目的とするところは、被申請人である原告が申請人である被告青木毛織合名会社に仮処分目的物件を明け渡さなければならず、被告青木毛織合名会社は右物件を取り毀すことができる旨のいわゆる断行の仮処分と同一の結果を指向することが明らかであり、たゞ一旦これを執行吏の保管に移す過程をとつたに過ぎないものと解せられる。しからば本件仮処分決定の文言は第一項の執行吏保管に移す旨の文言に続き、執行吏は申請人である被告青木毛織合名会社の申出があるときには右建物(諸式付)を取り毀し同被告方へ搬出するのを許すことができる旨の文言があるのと同様に理解し得るものであつて敢えて決一定自体を違法とするには当らないものというべきである。

次に、右仮処分決定は事実に反する疏明資料に基き保全の必要性がないのになされたから違法である旨の主張について判断する。証人一色順更、野田藤一、木全丈次、青木つねよ、加藤守一の各証言、原告(一部)及び被告牛田栄一各本人尋問の結果、検証の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。訴外坪内諒三郎が被告牛田栄一、訴外加藤守一を連帯保証人として訴外尾西信用金庫から金四〇四、〇〇〇円を借り受け、原告が右坪内から右四〇四、〇〇〇円を借り受けたところ、訴外尾西信用金庫は訴外坪内に対する右貸金につき昭和三二年一月二二日までに元金の弁済として金一六、〇〇〇円を受け取つたのみで、昭和三二年三月二三日以降は元金はもとより利息の支払もなされない状態に至つた。本来右借入金は原告が使用するために訴外坪内が借主、被告牛田らが連帯保証人となつて訴外尾西信用金庫から借り受けたものであるので、原告が弁済しないときは、連帯保証人たる被告牛田栄一が尾西信用金庫に対しその支払をしなければならなくなるため、そのようになつたときの被告牛田の有する求償権の担保として、原告は被告牛田栄一に対し別紙目録記載の不動産及び仮処分目的物件の所有権を譲渡することとし、名古屋法務局稲沢出張所昭和三二年一月三一日受付第一三九号により形式的に売買を原因として所有権移転登記をなしておいた。その後尾西信用金庫は右貸金の回収のため連帯保証人である被告牛田栄一に請求したところ、実際の借主が原告であるということから尾西信用金庫萩原支店長代理一色順更は原告と話し合い、原告を雇つていた訴外木全丈次に右借入金返済のため被告牛田名義になつている原告の不動産を担保にして資金の融通を申し込んだが容れられず一方木全丈次は一色順更に対し原告の一五、〇〇〇円の給料のなかから毎月利息共一万円ずつ返済する方法を提案したが金庫側の承諾するところとならず、昭和三二年秋頃被告牛田栄一、訴外一色順更、同加藤守一らが原告と話し合つた結果、原告は仮処分目的物件である離屋を売却することによつて右借入金を返済することを承諾し、諸方に買手を求めていた。その頃被告青木毛織合名会社は工場内にある女子工員の寄宿舎が手狭になつたため改築する必要があつたので右離屋を代金四〇万円なら買う旨述べ、更に一色順更が交渉して同被告の方で代金四五万円というのを原告が国税も支払わなければならないからもう五万円出してくれるよう求めたため、結局被告青木毛織合名会社は右離屋を代金五〇万円で買うことを承諾した。そこで昭和三二年一二月末頃原告方の右離屋で原告、被告牛田栄一、訴外一色順更、加藤守一らが集つた席上尾西信用金庫からの借入金の決済方法として、原告は右離屋を代金五〇万円で被告青木毛織合名会社に売却して右弁済に充てること及び被告青木毛織合名会社が右離屋を女子工員の寄宿舎とするため取りこわして自己の工場内に移築することを諒承した。当時原告方では右離屋のほかに同一敷地府に母屋(木造亜鉛メッキ銅板葺平屋建建坪三九坪九合)及び門と称するその二階を住居に使用し得る建物があつて、原告はこれらすべてを住居に使用しており、母屋はかなりいたんでいて長年月に亘り居住することは不可能であるが当分の間の使用には充分堪え得るものであつて、現実にもその後二年以上居住に使用しており、右離屋を売却しこれを明け渡しても原告は直ちに居住する家がなくなる状況にはなかつた。翌昭和三三年一月になつて被告青木毛織合名会社は前記の次第で被告牛田栄一の登記名義になつている右離屋を代金五〇万円で買い受け、右代金を訴外一色順更に手渡した。一色順更は右代金五〇万円中より尾酒信用金庫の訴外坪内に対する貸金の弁済に充当し、残額を被告牛田栄一名義の預金とし、被告牛田はこれをもつて原告の国税を納付した。被告青木毛織合名会社では右離屋の所有権移転登記を経た後、昭和三三年一月一二日頃諸式を搬出するため右離屋に赴いたところ、原告が寒明けまで待つてくれるよう要求したので、その際原告の同席するところで諸式の点検をなしたのみで寒明けまで待つこととし、寒明け後再び取りこわしに赴いたところ、原告は娘を東京へやるからその後にしてくれと述べ、その後も容易に明け渡さず、取りこわしは延引していた。一方被告青木毛織合名会社では原告の言明から寒明けには移築できるものと考え、当時屋敷内にあつた女子工員約一二名の寄宿舎(幅六間、奥行二間の広さ)を屋敷外の畑の中に移転させ、その跡へ右離屋を移築すべく基礎工事にかかつていたが、原告が売買のときの約束に反し明渡に応じないため建築を続けることができず、屋敷外の畑の中に女子工員を寄宿させておくことは困るので早急に取りこわしを求めるべく本件仮処分申請に至つたものである。原告本人尋問の結果中離屋売却及び取りこわしの点につき右認定に反する部分はたやすく信用できない。

右認定事実と本件仮処分申請の際提出された疏明方法である成立に争のない甲第二乃至第七号証の各記載とを対比すれば、右疏明資料の記載は略右認定事実に合致し、しかも右疏明資料によつて一応仮処分申請の理由は疏明されるのみならず、右決定に当り被申請人である原告を審尋したとしても、前記認定事実に徴すれば、右疏明資料によつて得られるところを左右し得るに足りる疏明資料、特に原告の住宅事情について仮処分の必要性を疑わさせるような疏明資料は得られないことが明らかであるから、右決定の違法を主張する根拠はない。

また杉田寛裁判官が仮処分決定に当り被申請人である原告を審尋することによつて異る疏明に達するものではないことは前述のとおりであるから、仮処分の必要性の有無にかかわらず審尋しなかつたことをもつて同裁判官に過失があるということもできない。

よつていずれにしても杉田裁判官が本件仮処分決定をなすにつき違法の点の存することが認められないから、その存在を原因とする原告の被告国に対する損害賠償の請求は失当であるといわなければならない。

二、被告青木毛織合名会社に対する請求について、

原告は被告青木毛織合名会社が仮処分申請に際し事実に反する疏明資料を添付して杉田寛裁判官を欺罔した旨主張するけれども前述のとおり右疏朋資料である前記甲第二乃至第七号証の各記載は略前記認定事実に合致するから、右主張は理由がない。

よつて原告の被告青木毛織合名会社に対する損害賠償の請求は失当である。

三、被告牛田栄一に対する請求について、

本件仮処分目的物件である離屋については、前記認定のとおり原告は昭和三二年一二月末頃、被告牛田栄一、訴外一色順更、同加藤守一らの同席するところで、被告牛田栄一に対し、実際には原告が借用している訴外尾西信用金庫からの借受金を返済するため、さきに求償債権確保の手段として被告牛田栄一の登記名義にしてあつた右離屋を被告青木毛織合名会社に代金五〇万円で売却し、右代金中から弁済することを承諾したものであるから原告不知の間に被告牛田栄一が売却したとの原告の主張は理由がない。

次に別紙目録記載の不動産については、前記認定のとおり、被告牛田栄一らが連帯保証人となつて訴外坪内諒三郎が訴外尾西信用金庫から借り受けた金四〇四、〇〇〇円を、更に原告が右坪内から借り受けて(以上の点については当事者間に争がない)現実には原告がその借主となつていたので、原告が右借受金を弁済しないことによつて被告牛田栄一が蒙る訴外尾西信用金庫に対する連帯債務負担の場合の求償権を担保するため、被告牛田栄一は原告から別紙目録記載の所有権を譲り受け、名古屋法務局稲沢出張所昭和三二年一月三一日受付第一三九号により形式的に売買を原因として所有権移転登記を経ていたところ、前記訴外尾西信用金庫の訴外坪内諒三郎に対する貸金は前記離屋を被告青木毛織合名会社に売却した代金によつて完済されたから、右所有権移転登記はその原因を欠くに至つたものである。

よつて原告の被告牛田栄一に対する請求中、右所有権移転登記の抹消登記手続を求める郎分は正当であり、離屋を不法に売却したことを原因とする損害賠償の請求は失当である。

四、以上により、原告の本請求中、被告牛田栄一に対する右所有権移転登記の抹消登記手続を求める部分を認容し、同被告に対するその余の請求並びに被告国及び被告青木毛織合名会社に対する請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し、仮執行宣言の申立については登記手続につき仮執行の余地はないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 村上悦雄 渡辺一弘)

目録〈省略〉

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